大判例

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東京高等裁判所 昭和46年(ネ)793号 判決 1973年10月09日

控訴人

株式会社花ころも

右代表者

近藤忠彦

右訴訟代理人

宮沢増三郎

川上眞足

宮沢健治

被控訴人

有限会社小島屋

右代表者

小島登喜雄

被控訴人

有限会社美川屋

右代表者

小島シヅ子

右両名訴訟代理人

宮下勇

主文

原判決を次のとおり変更する。

一、長野地方裁判所が昭和四五年九月一八日、同庁昭和四五年(ヨ)第五六号商品販売製造禁止仮処分申請事件についてした仮処分決定を次のとおり変更して認可する。

(一)  被控訴人有限会社小島屋は「ニュー花ころも」または「ニューはなころも」という商標を使用して天ぷら専用の味附小麦粉の製造販売を、被控訴人有限会社美川屋は「ニュー花ころも」または「ニユーはなころも」という商標を使用して天ぷら専用の味附小麦粉の販売をそれぞれしてはならない。

(二)  別紙目録記載の建物内にある「ニュー花ころも」もしくは「ニューはなころも」という商標を附した容器または包装に収納された天ぷら専用の味附小麦粉に対する被控訴人等の占有を解き、長野地方裁判所執行官にその保管を命ずる。執行官は封印その他適当な方法によりその保管にかかることを公示しなければならない。

(三)  執行官は、被控訴人等の申出があるときは、前項の味附小麦粉を容器または包装から取り出し、容器または包装を除いてこれを被控訴人等に返還しなければならない。

二、控訴人のその余の申請を却下する。

三、訴訟費用は第一、二審を通じ被控訴人等の負担とする。

事実《省略》

理由

一<証拠>を総合すれば、次の事実が一応認められる。

惣菜の製造、販売等を目的とする被控訴人小島屋は、昭和三四年頃から、小麦粉(薄力粉)に特殊な添加剤(種)を混合して天ぷら専用粉を製造し、これを使用して天ぷらの製造販売業を営むかたわら、その天ぷら専用粉に「花ころも」という商標を附してこれを販売していたところ、その売行きが順調に発展し、昭和四四年四月頃には「花ころも」という商標は、長野市およびその周辺において、同被控訴人の製造販売にかかる天ぷら専用粉を表示するものとして、取引者および需要者の間に広く認識されるに至つた。そこで、同被控訴人の代表者である小島登喜雄は、知人である近藤忠彦と協力のうえ、同被控訴人の営業のうち天ぷら専用粉の製造販売部門を独立させ、これを専門に行うため別会社を設立しようと企て、両名のほか一五名の株式引受を得て、昭和四四年六月二日、天ぷら材料の製造販売等を目的とし、前記の商標「花ころも」を商号の一部とする控訴会社を設立し、自らその代表取締役に就任した。控訴会社は同年六月三〇日被控訴人小島屋から天ぷら専用粉の製造販売に要する設備一切を譲り受けるとともに、同年七月一日頃から前記の天ぷら専用粉を「花ころも」という商標を使用し、同被控訴人の仕入先、得意先を引継いで製造販売する営業を開始した。同日以後、被控訴人小島屋は、試験改良のため少量の天ぷら専用粉を自ら製造したほかは、控訴会社から天ぷら専用粉を買い入れ、これを使用して天ぷらを製造販売し、天ぷら専用粉を業として製造販売することは行わなかつた。

<反証排斥―略>

以上認定の事実によれば、特段の事情の認められない限り、控訴会社が設立された同年六月二日頃、「花ころも」という商標によつて表象される営業組織、顧客先関係、仕入先関係等を含む被控訴人小島屋の天ぷら専用粉の製造販売に関する営業一切が控訴会社に譲渡されたものと推認するのが相当である。もつとも、この営業譲渡に対して対価を支払うべき旨の約束がなされたことの疎明はないけれども、前認定の控訴会社設立の経緯に徴すれば、このことは営業譲渡を否定すべき理由にはならないし、他にこの推認を妨げるべき特段の事情の疎明はない。

そうだとすると、被控訴人小島屋が営業譲渡の実効を失わしめるような不正競争の目的をもつて控訴会社と同一の営業を行うことは、商法第二五条第三項により、その地域および時期のいかんを問わず、許されないものといわなければならない。

二<証拠>を総合すれば、次の事実が一応認められる。

前認定の営業譲渡が行われた後である昭和四四年八月二三日、控訴会社の代表取締役であつた小島登喜雄が同人個人名義で「花ころも」の商標登録出願をしたため、これが主な原因となつて同人と控訴会社の専務取締役であつた近藤忠彦との間に確執が生じ、その結果昭和四五年二月一七日小島は控訴会社の代表取締役を辞任し、近藤が代表取締役に就任した。被控訴人小島屋は、前認定のとおり、控訴会社から天ぷら専用粉を買受けていたが、小島が控訴会社の代表取締役を辞任した後である同年四月頃これをやめ、直接製粉業者である柄木田製粉株式会社に注文し、小麦粉(薄力粉)に混合する添加剤(種)を控訴会社の使用するものと多少変更を加えて天ぷら専用粉を製造させ、天ぷらを製造するために使用するものを除き、適当な分量に分けてビニール袋からなる容器に収納し、これを販売する営業を開始した。

そして、当初はその容器に「花ころも」という商標を附していたが、同年五月頃からは、「ニュー花ころも」または「ニューはなころも」という商標を附した容器を使用して天ぷら専用粉を販売している。また、同年五月一日天ぷら専用粉ニュー花ころもの製造販売を目的とし、被控訴人小島屋が使用している建物の所在地を本店所在地とする被控訴人美川屋が設立され、小島登喜雄の妻小島シヅ子が取締役に就任した。そして、同被控訴人はその頃から単独でまたは被控訴人小島屋と共同して、「ニュー花ころも」または「ニューはなころも」という商標を附した容器を使用して天ぷら専用粉を販売しはじめ、控訴人の得意先に売込み販売した。このような被控訴人等の行為により、控訴会社は被控訴人等にその得意先の一部を奪われ、長野市内等の大口販売先に対する売上げが激減した。

以上認定事実によれば、被控訴人小島屋は控訴会社に対して「花ころも」の商標による天ぷら専用粉の製造販売に関する営業を譲渡したにもかかわらず、その後控訴会社となんら話合もせずにこの商標と称呼観念において類似する「ニュー花ころも」または「ニューはなころも」の商標を附して添加剤に多少の相違があるとはいえほぼ同種の天ぷら専用粉を製造販売し、控訴会社の得意先を奪おうとしたものであつて、不正競争の目的をもつて、控訴会社と同一の営業を行うものといわなければならない。したがつて、控訴会社は同被控訴人に対し、商法第二五条第三項により前認定の商標を使用する天ぷら専用粉の製造販売の差止を求める権利があるといわねばならない。また、被控訴人美川屋は、「花ころも」に類似する「ニュー花ころも」または「ニューはなころも」の商標を使用した天ぷら専用粉を販売して控訴会社の製造販売する天ぷら専用粉と混同を生ぜしめる行為をしているのであつて、これによつて控訴会社が営業上の利益を害されるおそれがあることは明らかである。ところで、前認定のとおり、「花ころも」の商標は被控訴人小島屋の製造販売にかかる天ぷら専用粉を表示するものとして取引者、需要者間に広く認識されていたところ、これが控訴会社の製造販売にかかる天ぷら専用粉を表示する商標として広く認識されるに至つたという疎明はない。しかし、不正競争防止法第一条第一項第一号は、競業秩序を維持するとともに、商標等の使用者の商標等によつて表象されるいわゆるグッドウイルを保護することを目的とするところ、控訴会社は、前認定の営業譲渡により、「花ころも」という商標によつて表象される被控訴人小島屋のグッドウイルを正当に承継して同商標を使用しているものであるから、控訴会社は被控訴人美川屋に対し、不正競争防止法第一条第一項第一号により、前認定の販売行為の差止を求める権利があるといわなければならない。

三さきに認定した事実によれば、控訴人が本案判決の確定を待つていたのでは回復しがたい損害を受けるおそれがあることが容易に推認されるところ、その損害の発生を防止して前判示の被保全権利を保全するためには、被控訴人小島屋に対しては前認定の商標を使用する天ぷら専用粉の製造売を、被控訴人美川屋に対しては同物件の販売をそれぞれ禁止するとともに、被控訴人小島屋の店舗および倉庫であり被控訴人美川屋の工場である(このことは被控訴人等の明らかに争わないところである。)別紙目録記載の各建物内にある前記商標を附した容器または包装に収納された天ぷら専用粉を執行官に保管させる必要があるということができる。ただし、被控訴人等は、前記商標を使用して天ぷら専用粉を販売することが禁ぜられるだけで、これを自ら天ぷらを製造するために使用することを禁ぜられるわけではないから、被控訴人等の申出があるときは、執行官は、その保管にかかる天ぷら専用粉を前記の容器または包装から取り出し、容器または包装を除いてこれを被控訴人等に返還しなければならない旨定めるのが相当である。そして、控訴人申請の仮処分のうち前記の限度を越える部分は、前同様の理由によりその必要の程度を越えるといわねばならない。

なお、控訴人は被控訴人等に対して別紙第一、第二図面表示の容器包装の使用禁止を求めているが、被控訴人らが現在これらを使用しているという疎明はないから、この申請をいれるわけにはいかない。

四以上の理由により控訴人の申請は前記の限度で正当であるから、主文掲記の仮処分決定を前記のとおり変更のうえ認可し、その余は失当であるからこれを却下すべきである。これと一部結論を異にする原判決は変更を免れない。

よつて、

主文のとおり判決する。

(古関敏正 瀧川叡一 宇野栄一郎)

別紙第一・二図面、目録<省略>

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